辻川慎一つくば便り

死者の贈り物(ゴッホ展に行く)

休日と言うのもあっという間です。夏ににぎやかに鳴いていたセミが、地上に出てからは8日間ほどしか生きられないので儚く思われますが、例え人が100年生きようと儚さは変わらない様に思う。なのでやっぱり休日も儚い。

儚い休日ながら、昨日は「東京都美術館でゴッホ展やってます。」と知らせてくれた友人と一緒に見に行って来た。

約束した時間に合わせて、コーヒーを用意しながら、入場料を調べて見ましたら何と予約制。ヤバい!また安易に考えて「行きましょう。」なんて約束してしまったと慌てる。

大好評の様でほとんど売り切れ状態ながら、幸いにも昼時12時からだけ残りがあった。急ぎでネットチケットを確保して、ホッとする。
いつもながら、どうも詰めが甘い。


電車で上野駅へ。天気も良く公園口にはたくさんの人。予約時間まで上野公園のベンチで、一緒にコーヒータイム。美味しいマドレーヌのおやつも用意しました。ペルーのコーヒーにしっかり合い、ふ〜っと落ち着く。紅葉も良い感じになって来ていて、何気に木の感覚や剪定の仕方も良い感じがする。


「このままずっと座っていられるね。」と友人が言う。とてもくつろいだ時間が流れる。


1986年頃だったか、チェルノブイリ原発事故の後ここで数万規模の反原発集会があった。私もそこにいた。ずいぶんと綺麗になったと感心するが、もう40年も前の事なんだと思う。やはり外国人観光客が多い。


東京都美術館は、上野動物園の脇に位置していた。昔の入園口が美術館の脇に残っていた。

「パンダみたいに、ゴッホの絵も立ち止まらないで見て下さいなんて言われるのかな?」なんて思うくらいに人がいた。

「何だかドキドキする。」と言う友人。絵を見る前から、雰囲気を楽しんでいるんだなと思う。

チケットは、65才以上だと700円引き。当日券も案内されていたので「何だ〜」と思うが、何時に案内されるのか分からないよなと思う。

ネットチケットのQRコードをスマホで見せて、免許証で年齢を確認してもらいスムーズに会場に入った。

オランダ時代に影響を受けた絵などを見て初期の作品へ。失礼ながら老眼で説明書きが読めないので友人と共に一番前で見て行く。皆さんゆっくり見ながら歩くので、助かる。

それからパリ時代へ。多くの画家たちと出会いながら衝撃をうけ、自分自身の絵を模索した時代。オランダ時代とはガラリと変わり色彩が豊かになる。

それからフランス郊外の農村地帯で、ゴッホ自身の絵が強烈に確立されて行く。

うねる様な曲線と色彩の渦の中に現れるゴッホのあの世界。

「音楽の様に、人を癒せる絵が描きたい。」と言っていたと言うが、甘さの無い深い優しさを感じる。

近くで見るとおびただしい色彩の線に溢れている。それが、離れて見るとどうしてこう見えるのか?と感心してしまう。

そして私が感じたのは尋常でない優しさ。


友人が気に入った3Dの映像。実際に三面の壁が使われてゴッホの絵の世界を表現していた。



友人が「もっと見ていたい。」と3回見たが、もっと見たそうだった。


「柄にも無いけど」と言いながら、とても大切な時間にしている事を新鮮に感じる。

素通りどころか、2時間半。集中して見る事がで来た。入場時間を分ける事でそれが可能になるのだと感心した。

「二度と来れないから。」と言う友人は、一つ一つを良く見て、記憶して「とても楽しかった。」と疲れた様子が無い。

余韻に浸りながら、遅くなったランチの店を谷中で探す事にした。

途上に、東京芸術大学がある事を初めて知る。
上野は、芸術の街でもあった。



寺町の谷中。寺も多いがレトロでモダンなお店も多い。それを楽しみながら、通りの店がほとんど一杯なので、さらに裏通りに目をやりながらようやく見つけたカフェと和食のお店に入る。



和モダンなお店ながら、狭い通りの向う側は墓地。卒塔婆を眺めながらのランチタイム。何気にレンコンきんぴらの小鉢付き。


「私のレンコンきんぴらとは全然近違いますね。」と言うと「辻川さんが、作るのは別物の美味しさですよ。」と言ってくれる。しかし、唐揚げは「どうしたらこんな風になるんだろう?」と感心する美味しさだった。ぬか漬けとみそ汁は、私が作った方に軍配を上げた。

ずいぶんと味わう様になり、うるさくなったもんだと思う。

友人が初めて、と言うので谷中銀座を冷やかして、キムチとチャンジャが美味しそうな韓国人オモニのお店でお土産を買った。とても感じが良く、テキパキとしながら思いやりを感じたのできっと美味しいはずだ。

儚い休日ながら「こんなに愉しい事は無かった。」と心から喜んでくれる友人を見ながら、良かったと思う。

ゴッホは、37才で自殺してしまった。彼の良さを信じ、理解し支え抜いた弟のテオも半年後になくなり、テオの妻とその息子がゴッホを世界に知らしめた。

それから、ゴッホの絵を魂から愛し抜いた人もいた事を知った。


ヘレーネ・ミュラー。私が見て見たいゴッホの絵は、彼女が集めて作ったオランダの美術館にある。日本での展覧会があったのを知らなかった。できるなら、オランダに行っても見てみたいなと思ったりする。



長田弘さんの詩集「死者の贈り物」を思い出した。


いまはないもの。
逝ったジャズメンが遺したジャズ。
みんな若くて あまりに純粋だった。
みんな次々に逝った。あまりに多くのことを
全部、一度に語ろうとして。

62才で亡くなった演出家の渡辺浩子さんは、ニューヨークでジャズ演奏を聞いて

「ここにはあの空ろな目つきはない。ものすごい真剣さで自分をたたきつけてくる。…甘ったれていないなと思う。」

と言う言葉を残していた。

ゴッホ自画像の目を思う。

答えを急ぐ事は無いと思うけれど、甘ったれた目をしていてはいけないなとも思う。

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